ワカケホンセイインコ野生化問題について研究者・阿部仁美先生へインタビューで解説
ワカケホンセイインコの野生化を取り上げるテレビニュースが増えています。
しかし、中には調査などは行われずに在来種への影響や騒音、フン害などの恐怖を煽る内容で報じられています。
できるだけ調査・研究に基づく情報を届けるため、ワカケホンセイインコの生態について研究されている阿部仁実先生にインタビューを実施しました。
- 1. ワカケホンセイインコ野生化の報道が急増
- 2. 調査・研究に基づくワカケホンセイインコの情報が大切
- 3. ワカケホンセイインコの研究を行う阿部仁美先生
- 4. 野生インコ写真家・岡本勇太さんも参加
- 5. ワカケホンセイインコ野生化の歴史
- 6. ワカケホンセイインコが野生化している地域は?
- 7. かつての目撃地域から、なぜワカケホンセイインコはいなくなった?
- 8. ワカケホンセイインコの増加状況は?
- 9. ワカケホンセイインコの繁殖頻度は?
- 10. ワカケホンセイインコが桜の花びらを落とし始めたのはいつ?
- 11. 今後の個体数の急増要因は駆除や追い払い
- 12. 農作物の被害や騒音被害・フン害はある?
- 13. ワケカホンセイインコの野生化の報道の在り方
- 14. 緊急事態宣言によるワケカホンセイインコへの影響
- 15. ワカケホンセイインコの日本の在来種への影響は?
- 16. ワカケホンセイインコはロンドンなどの海外でも増加
- 17. ワカケホンセイインコへの接し方・対応方法
- 18. 近年加熱するワカケホンセイインコのメディア報道について
- 19. ワカケホンセイインコが生息する木が剪定!
- 20. まとめ・終わりに
ワカケホンセイインコ野生化の報道が急増
昨今、ワカケホンセイインコの野生化に関する報道がテレビやネットニュースで報じられる機会が増加しています。
ニュース番組などで取り上げられること自体は、多くの人が知るきっかけとなるので重要です。
けれども、最近のテレビ報道はワカケホンセイインコの野生化の負の面を強調し、視聴者に恐怖を煽るような内容も多くなっています。
ワカケホンセイインコの個体数増加によって、在来種の生き物が影響を受ける、騒音問題、フンによる病気の感染といった部分がフォーカスされています。
また、専門家でもないコメンテーターがその場の思いつきで「捕獲して売ればよい」と述べたこともありました。
インコ生活でもワカケホンセイインコの野生化について以下の記事でまとめています。
調査・研究に基づくワカケホンセイインコの情報が大切
ただ、そうしたマイナスな面だけを強調されることで、世論として駆除という話にもなりかねません。
こうした問題では、専門家による調査・研究に基づく情報がとても大切です。
そうした科学的なアプローチによって得られた情報から、どのように我々日本人がワカケホンセイインコと向き合っていくか考える必要があります。
そこで、ワカケホンセイインコの現状について、できるだけ調査・研究に基づく情報を届けるため、ワカケホンセイインコの野生化問題を調査されている研究者の方にインタビューを行いました。
ワカケホンセイインコの研究を行う阿部仁美先生
実は日本にもワカケホンセイインコの生態を調査・研究されている方がいます。
その中のお一人が、千葉科学大学の阿部仁美先生です。
阿部仁美先生のご経歴
大学院においてセキセインコの音声コミュニケーションについて研究。動物看護師として勤務しつつ、帝京科学大学非常勤講師を経て現職。ニューカレドニアやオーストラリア、御蔵島、南大東島などで野鳥観察・調査の経験を積み、主に野生のインコを含む鳥類を対象に調査・研究を行っている。
阿部仁美先生は2021年に開催された日本鳥学会の大会でも、ワカケホンセイインコの研究発表を行っています。
そんなワカケホンセイインコを調査・研究している阿部先生に、日本のワカケホンセイインコの現状についてインタビューを実施しました。
野生インコ写真家・岡本勇太さんも参加
今回のワカケホンセイインコ研究者の阿部仁美先生へのインタビューは、野生インコ写真家・岡本勇太さんのご紹介で実現できました。
岡本勇太さんはインコ生活のフォトコンテストなどで審査員のご協力をいただいています。
岡本勇太さんはオーストラリアで野生のセキセイインコやオカメインコを追い求め、2019年に約15万羽ものセキセイインコの群れを映像に収めました。
さらに、ワカケホンセイインコの原産地であるインドやスリランカを訪ねて、写真撮影を行っています。
そこで、阿部先生と岡本さんのお二人にオンラインでインタビューを実施しました。
※本記事に掲載しているワカケホンセイインコの撮影写真は、岡本勇太さんよりご提供いただきました。
ワカケホンセイインコ野生化の歴史
(インコ生活)ワカケホンセイインコが日本で野生化し始めたのはいつごろからでしょうか?
(阿部仁美先生)元々、1960年代後半から1970年に起きたペットブームでワカケホンセイインコが輸入されてきました。
1969年に輸入・輸送で使用されたコンテナが東京都内で壊れる事故が起き、100~200羽が逃げ出したというのが有名な話です。
野鳥としての国内最初の記録は1969年東京都のものになります。
(インコ生活)コンテナ事故から逃げ出したのは、インドやスリランカの原産国から輸入された個体ですか?
(阿部仁美先生)その通りです。1960年代は、まだインドなどの現地でほぼ野生の個体を捕獲して、日本に輸入されていたと思われます。
そのため、野生個体がそのままコンテナから逃げ出してしまい、再び野外に放たれたという流れです。
実はイギリスやドイツでも同じ1969年ごろにワカケホンセイインコの野生化が始まっています。
ペットとして野生のワカケホンセイインコを輸入したのは日本だけではなく、他の国でも同じように輸入されていたようです。
日本のテレビ報道では時折「飼い主が飼いきれないからペットを放した」と紹介されることがあります。
しかし、かごで飼っていたインコが逃げ出したところで個体数はせいぜい10数羽なので、生き残るのは難しいと思います。
(岡本勇太氏)経緯をきちんと把握せずに紹介してしまっているため、今のワカケホンセイインコのテレビ報道の仕方はかなり問題があるのではないかと考えています。
(インコ生活)確かに元々のペット個体が逃げ出したと思われている人もいらっしゃいますね。
そうではなく、原産地で野鳥として暮らしていたものが日本に連れて来られて、それが逃げ出したということですね。
(阿部仁美先生)ペットの個体が逃げ出したり、飼い主の方が放ったという事例はありますが、各地で発生しています。
それにも関わらず、東京を中心にワカケホンセイインコが生息しているのは、前述したコンテナ事故が影響していると考えられます。
ワカケホンセイインコが野生化している地域は?
(インコ生活)現在、東京・神奈川を中心にワカケホンセイインコの情報が多くありますが、その他の地域で野生化している地域はありますか?
(阿部仁美先生)現在だと東京、埼玉、神奈川で1つのワカケホンセイインコのグループを形成しています。
その他、千葉と群馬でも生息を確認していますが、こちらは規模が小さく、両方のグループを合わせて100羽いない程度です。
(岡本勇太氏)千葉市のグループに関しては江戸川で隔てられていることもあり、東京・埼玉・神奈川のグループと千葉のグループは今のところ、合流する動きは見られていません。
江戸川区やその近隣の公園で目撃情報は聞いた事がありません。
食料を求めて、冬季は繁殖期である春〜夏季より広範囲を移動する傾向があります。
かつての目撃地域から、なぜワカケホンセイインコはいなくなった?
(インコ生活)当時の新聞を見ると、関東以外の地域でも確認されていたようですが、現在は生息していないとのことです。なぜ、他の地域で野生化していたワカケホンセイインコはいなくなったのでしょうか?
(阿部仁美先生)ワカケホンセイインコ自体が日本に適応できているとは言い切れないと思います。
調査中、カラスや猛禽に襲われているワカケホンセイインコを何度も目撃しています。
小規模で動いていると、そうした天敵に襲われている可能性が高いと思われます。
かつて大阪でも生息していたと報告がありますが、そうした理由から、生き延びることができなかったのだと思います。
ワカケホンセイインコは、群れがカラスなどに襲われると、モビングと呼ばれる大量の群れで飛び立つことで危険から逃れるようにしています。
(岡本勇太氏)インコの仲間は日本にいないじゃないですか。生態系のニッチを占める生き物がいなかったので、日本の都市環境に上手く入り込むことができました。
ただ、日本の山はインコが巣を作る樹洞が少ないため、奥多摩などの山ではインコは生きていけないゆえに、生息していません。
人間が作り出した井の頭公園や明治神宮、上野公園には色々な地域から持ってきた古い木があり、食べるものがあるため、生息できています。
インコは種子食の鳥ですが、山には一年中種子があるわけではないので生息できず、人間が開発した都市環境でしか生きていけない状態です。
ホンセイインコの原産地インドで、種子だけでなく、花の蜜を舐めているのも目撃したので、他のインコと比べて食料の適応力は高いように感じます。
(インコ生活)イギリスなどの海外でのワカケホンセイインコの繁殖事例と比較して、東京は自然公園が多いなど類似点がありますね。
(阿部仁美先生)岡本さんがおっしゃったワカケホンセイインコの生息条件として、食べ物がたくさんあることに加えて、「ワカケホンセイインコは多少開けた明るい場所」を好む傾向があります。
日本の公園だと木はあるけど、密には植わっていないですよね。そのため、山よりも都市環境の方が生息地として適していると考えられます。
(岡本勇太氏)ワカケホンセイインコの山の鳥ではないですね。
(インコ生活)ワカケホンセイインコが山に適応しづらいということで、今の東京・埼玉・神奈川の生息域から拡大には山があるため難しいということですね。
(岡本勇太氏)今の個体数であれば、その通りです。
ただ、ワカケホンセイインコを餌付けする人がいて、餌付けによってエサが十分にあると個体数が増えることになります。
ワカケホンセイインコの増加状況は?
(インコ生活)ここ数年のワカケホンセイインコはどれぐらい増えていますか?メディアの報道では2000~3000羽といわれることが多いですが、いかがでしょうか。
(阿部仁美先生)ワカケホンセイインコの羽数をカウントしているデータがあります。
私個人でもカウントもしていますが、他にも帰化鳥類研究会や鳥類保護連盟といった団体が個体数を調べています。
ここ数年は、個人・団体が協力して一斉にカウントしています。
これらの調査から推計するに、ワカケホンセイインコはおおよそ2000羽います。
この羽数は、千葉と群馬のグループを合わせた数字と思ってください。
初期のデータで1978年に400羽、1000羽を超えたのは、2004年頃です。
(インコ生活)今ワカケホンセイインコの個体数が増えているとのことですが、近年は増加スピードは増しているのでしょうか?
(阿部仁美先生)急に増えているかといえば、そうではなく、微増といった状態です。
私は毎週、関東県内のワカケホンセイインコの生息地の調査をしています。
ワカケホンセイインコは夕方、木に集まって集団で寝る習性がありますが(ねぐら)、一部巣をつくる個体や違う場所で寝る個体がいるので、同じ場所でも日によって個体数の増減があります。
夏にはワカケホンセイインコのヒナが出てくるため、多くなったように感じますが、自然淘汰されて、冬の時期になると今の数値に落ち着きます。
(岡本勇太氏)ワカケホンセイインコの中には、人工物の小さな隙間に巣を構える気まぐれな個体もいます。
例えば、建物のダクトや隙間など巣として、オスもメスもそこに戻ってくるようになっています。
(阿部仁美先生)基本的に巣を構えているワカケホンセイインコはそこで暮らしているイメージです。
必ずしもすべてのワカケホンセイインコが神奈川県内のねぐらに帰るわけではありません。
群馬と千葉にあるワカケホンセイインコの群れもねぐらを作っています。
ワカケホンセイインコの繁殖頻度は?
(インコ生活)ワカケホンセイインコが繁殖を行うのは夏の1回だけでしょうか?
(阿部仁美先生)ちょっとむずかしい質問ですが、エサがあれば、ワカケホンセイインコは年に2回繁殖を行うチャンスはあると思います。
しかし、2回チャンスがあるというだけで、雛や幼鳥を育てている間は、子供をつくることはなく、1回目に失敗した場合にチャレンジする形だと思います。
ワカケホンセイインコは2月ごろから暖かくなり始めたころに繁殖を行い、抱卵して子どもが生まれます。
子どもが巣から出てくる巣立ちヒナが見られるようになるのが5月ぐらいですね。
ちゃんと飛べるようになるのが、6,7月ぐらいで若いワカケホンセイインコの個体を見かけるようになります。
ワカケホンセイインコが桜の花びらを落とし始めたのはいつ?
(岡本勇太氏)ワカケホンセイインコは桜の木に依存していると感じています。
都市部の公園では、サクラの木が多く植樹されており、ソメイヨシノだけでなく、カンヒザクラやオオヤマザクラなど、それぞれ開花時期が異なる様々な品種がありますが、桜の花の蜜をなめることもありますし、花が咲いたあとにさくらんぼの実も食べています。
(インコ生活)以前、岡本さんと井の頭公園にワカケホンセイインコを探索した(レポート記事)際も、桜の花を落としていました。その映像はよくテレビなどでよく報じられていますが、最近落とし始めたのでしょうか?それとも以前から落としていましたでしょうか?
(阿部仁美先生)ワカケホンセイインコは、30年以上前から桜の花びらを落としていました。
すでに廃刊してしまったアニマ(平凡社)という雑誌があるのですが、1990年に発売された号にも桜をかじるワカケホンセイインコの写真が掲載されています。
そうした写真が撮影されていることから、最近になって桜の花びらをかじり始めたわけではなく、昔からワカケホンセイインコが桜の花びらをかじっていました。
今後の個体数の急増要因は駆除や追い払い
(インコ生活)メディアでの報道でワカケホンセイインコが急増したイメージはありますが、そうではないわけですね。今後、爆発的な増加に転じることも考えられるでしょうか?
(阿部仁美先生)もちろん、そうした急激な増加は考えられますし、注意を払っています。
そうした個体数の急増には現状の群れが分散する必要があると思われます。
分散するとしたら、個体数増加による分散の他、他の動物に襲われる、ヒトによる駆除や追い払いといったことがきっかけになると考えられます。
(岡本勇太氏)行政やメディアはワカケホンセイインコをねぐらから駆除したいという考えがあるかもしれませんが、危険だと思います。
(阿部仁美先生)駆除や追い払いによって逃げた個体が農業地帯に移動してしまった場合、農業被害が出てしまう恐れもあります。
(岡本勇太氏)インドやスリランカではお米が育っているので、ワカケホンセイインコも食べていますが、千葉の水田でお米が食べられるかもしれません。
下手に専門家の介在なしで駆除が行われ、生息域が拡大した場合に、取り返しのつかないことになります。
(インコ生活)農作物への被害が出ることを考えると、駆除することは被害を拡大させる原因になりかねないですね。
(岡本勇太氏)鳴き声がうるさい程度であれば駆除までにはならないですが、経済的な損失が出ると駆除に傾いてしまいます。
農作物の被害や騒音被害・フン害はある?
(インコ生活)ワカケホンセイインコによって農作物への被害や、騒音・フン害などはありますでしょうか?
(阿部仁美先生)現在、ワカケホンセイインコによる農業被害は出ていません。
農作物の被害以外に、鳴き声などの騒音が心配されています。
報道によって注目された神奈川県内にあるねぐら付近は小学校や市の建物があり、最近マンションも建てられましたが、鳴き声は朝夕の2時間程度なので、どうとらえるかが重要になります。
ワカケホンセイインコのフン害についても、最近のメディア報道を受けて苦情が入るようになったようです。
報道前は、神奈川県内で糞に関する苦情はなかったと確認しています。
こうした苦情が入るようになったのは、コロナ禍や報道によって一般の方の病原菌に対する意識が向上したことが一つの要因だと思います。
ねぐらの木の下には多数の糞がありますが、それらに含まれる菌を調べて、今年(2021年)の日本鳥学会の大会で発表しました。
ワカケホンセイインコのねぐら近くの木の下には多数の糞がある状態で、それらの保菌状況を検査しました。
もちろん病原性を示す菌は確認されましたが、免疫がよほど下がらない限り感染することはない菌でした。
よく注目されるオウム病はオウム目だけから感染するものではありませんし、感染症が気になる場合は、身近な鳥であるドバトなどの方が注意が必要です。
現状のワカケホンセイインコについては、マスクの着用や手洗い・うがいなどの感染対策を行っていれば予防できるレベルだと思います。
ワケカホンセイインコの野生化の報道の在り方
(岡本勇太氏)ナショナルジオグラフィックに掲載されたイギリスのワカケホンセイインコのアンケートでは、好きと嫌いが半々という結果でした。
それに対し、日本の報道では、どうしてもワカケホンセイインコを恐怖の対象として嫌いという印象を与えようとしている気がします。
ワカケホンセイインコに対してネガティブな印象を持たせることで、駆除という選択肢を取るべきという方向に持って行きたいという風に感じます。
(阿部仁美先生)もし仮に日本がワカケホンセイインコを現状で駆除するという対応をとった場合、海外から非難を受けると思います。
(インコ生活)マスコミ的には、恐怖をあおる形での報道のほうが視聴者を引き付けられるので、そのように報じているかもしれないですね。
そうした報道に人々が接することで、ワカケホンセイインコについてニュートラルだった人も駆除や捕獲に意見を傾きかねないと思います。
(阿部仁美先生)以前は苦情自体がなかったので、メディアによる影響はあると感じます。
かつてはムクドリの報道が多かったのですが、ワカケホンセイインコの方が体も大きく、色も目立つなどで取り上げられやすいのだと思います。
ワカケホンセイインコは外来種として取り上げられていると思いますが、今のところ生態系や農作物に大きな影響を及ぼす「特定外来生物」ではないんですね。
「スズメが減ったのはワカケホンセイインコが原因ですか?」と尋ねられたこともありました。
(岡本勇太氏)スズメとワカケホンセイインコは食べ物もあまり被っておらず、むしろムクドリやヒヨドリ、オナガの方がスズメと食べ物が被っています。
(阿部仁美先生)スズメが減った原因としては、人間の住環境の変化が大きいですね。
かつては瓦屋根とかの隙間に巣をつくっていたのが、そうした住宅がなくなって繁殖できなくなり、田んぼがなくなったのがスズメ減少の原因だと思います。
なかなかワカケホンセイインコについて細かいところまでは伝えるのは難しいですね。
緊急事態宣言によるワケカホンセイインコへの影響
(インコ生活)新型コロナによる緊急事態宣言など、人の流れに大きな変化が起きました。そうした人々の行動変化によってワカケホンセイインコに変化は生じましたか?
(阿部仁美先生)正直、人間の流れがゆるやかになったことで劇的に変わった行動はないですね。
逆に人の流れがあると「警戒心が高くなる」ことはあります。
2018年頃から始まったワカケホンセイインコの報道の後、人がねぐらの木を蹴る、ゴミを投げる、ロケット花火を打ち込むなどの行動を目にしています。
このような人間の行動や大きな音、花火などで警戒することがあります。
ワカケホンセイインコの日本の在来種への影響は?
(インコ生活)ワカケホンセイインコが日本の在来種への影響はありますか?
(阿部仁美先生)ワカケホンセイインコを長年調査している方は数名おりますが、そうした影響があるという情報はありません。
木の洞を使ってしまうから、日本の在来種の巣を奪っているという話も出ていますが、在来種の方でもそうした報告はありませんし、洞をめぐって奪い合っているのを見たことがありません。
(岡本勇太氏)強いていうなら、オナガとムクドリの可能性があります。
アカゲラやアオゲラの巣を奪うという話を聞いた事がありますが、ちゃんとしたデータはありません。
危惧があるとすれば、日本の都市部で緑化が進んだことで、そうしたエリアに在来種に進出してきて、競合する恐れがあります。
ただ、そうした生き物は逆に都市部に進出して、今のところ数を増やしてきているので、ワカケによって数を減らして絶滅の恐れがある個体はないと思います。
(阿部仁美先生)一般の方から「ワカケホンセイインコは肉食ですか?」と尋ねられることもありますが、種子食なので、直接在来種を捕食することはありません。
食べているものも他の在来種と大きくかぶっているわけではなく、ねぐらも他の鳥類と共同で使っていることが分かっています。
ワカケホンセイインコがねぐらを共同で使っている他の鳥を追い出すために攻撃する様子は確認したことがありません。
そのため、ワカケホンセイインコが在来種に何か大きな影響を与えているかというと、影響を与えていると示す証拠はない状態です。
ワカケホンセイインコはロンドンなどの海外でも増加
(インコ生活)ワカケホンセイインコは海外にも進出し、ヨーロッパでも生息が広がっているようですが、海外の状況はどのようになっていますか?
(阿部仁美先生)ロンドンでは3万羽ものワカケホンセイインコが生息しているようです。
イギリスに関しては、公園等での餌付けを止めたそうですが、そこまで増えてしまうと対処方法がない状態です。
現時点でヨーロッパのドイツを含め、イギリスも駆除は行っていないと思います。
※ナショナルジオグラフィックにも、ロンドンでのワカケホンセイインコ生息に関する記事が掲載されています。
ロンドンを気に入った外来インコ、推定3万羽が定着(ナショナルジオグラフィック)
(インコ生活)スペインだとオキナインコの駆除が行われていましたが、その点はいかがでしょうか?
(阿部仁美先生)オキナインコが駆除されたのは、電線などに巣を作ってしまったからだと思います。
※オキナインコは木の洞を巣とせず、木の枝で巣を作る習性があります。
海外で駆除されている事例は、駆除しないと電線がショートして火災が発生するなどの危険性がある場合です。
ワカケホンセイインコでは、そのような危険が発生するとは考えられていません。
海外の事例を確認しても、大々的に駆除は行われていなくて、人間の住居の隙間に巣を構えてしまった場合は、幼鳥が巣立った後に穴を防ぐ、ダクトに網を張るなどの対応のみです。
生き物が巣を作ってしまったからといって、煙などを使った追い払いや駆除は行われていません。
こうした駆除を行うと、国際的な批判が起きることもありますし、各国の愛護団体が動く可能性もあります。
(インコ生活)スペインでのオキナインコは火災等の危険を取り除くための駆除で、日本のワカケホンセイインコの状況とは異なるということですね。
(阿部仁美先生)そのとおりです。ワカケホンセイインコはそうした危険を招いている状況ではありません。
ワカケホンセイインコに関する動向を見ていても、駆除に傾きかけている日本の状態は国際的にも特殊だと感じています。
ワカケホンセイインコへの接し方・対応方法
(インコ生活)ワカケホンセイインコに対し、我々はどのように接するのがよいでしょうか?
(阿部仁美先生)ワカケホンセイインコに対して、餌付けをしないことだと思います。
冬になると、食べられるものが少なくなり、落鳥する個体が出てくると思います。
これは在来・外来種に関係なく、鳥類全体の傾向で、特に若い個体が亡くなりやすいです。
冬場のワカケホンセイインコには、人間が設置しているひまわりの種などを鳥に与えるためのフィーダーを利用している個体がいることも確認しています。
(岡本勇太氏)そうした餌付けがなければ、食べ物がないことで自然淘汰されて、ワカケホンセイインコの個体数はそれほど増加しないと個人的には思います。
一番よくないのはインコがかわいいからと言って、エサとなる食べ物を与えてしまうことですね。
(インコ生活)NHK「ダーウィンが来た」でもワカケホンセイインコを餌付けする映像が放送されたものの、餌付けに対する注意喚起がなかったですね。
(岡本勇太氏)ダーウィンが来たで報じられた映像では、渋谷の屋上で大量のエサが与えられていたので、よくないですね。
インコは限られた都市部の限られた食事を食べて、食べ物を取れない子は可愛そうですが自然淘汰されて、適切な個体数と適切な分布で維持するのが重要です。
ワカケホンセイインコを減少方向に持っていくのであれば、そうした対応を取るしかないですね。
(阿部仁美先生)鳥の場合は、地域猫のように避妊去勢ができないんですね。
そうした繁殖のコントロールが不可能なので、ワカケホンセイインコに餌付けをやめることは個体数の増加を防ぐために大事ですね。
あとはとにかくワカケホンセイインコにいたずらしない、攻撃しない、捕まえないことも重要です。
ワカケホンセイインコのねぐらに夜に訪れて、フラッシュで撮影するのは刺激してしまうのでやめてもらいたいです。
また、感染対策として手洗い・消毒の徹底と、適切な距離を保つ、羽を拾う人もたまにいらっしゃいますが、その場合はしっかり洗う必要があります。
春先の注意としては、ワカケホンセイインコのヒナを拾ってこないことですね。
(インコ生活)日本の行政としてはどのように対応すればよいでしょうか?
(阿部仁美先生)行政は、まずきちんとワカケホンセイインコの生態を調査し、把握してもらいたいです。
その上で、専門家を交えて環境整備や必要に応じた追い払い、駆除の検討をすべきだと思います。
そうしなければ、岡本さんがおっしゃったような分布域の拡大につながってしまいます。
ワカケホンセイインコは特定外来生物ではないので、きちんと根拠を集めた上で、法的措置を取った上で対応しないと、国際的な非難は免れないです。
法律面で考えると、報道で注目された神奈川県内のねぐらは、鳥獣保護地区である上、市長の権限で駆除できる鳥類種にワカケホンセイインコが含まれていません。
そのため、法律に則って駆除するには、実態調査や会議の上、県知事や環境大臣の許可が必要になると思います。
(インコ生活)行政はきちんとワカケホンセイインコについて調査を行うこと、そして専門家に入ってもらいながら、検討を進めていくことが重要ですね。
近年加熱するワカケホンセイインコのメディア報道について
(インコ生活)テレビなどでワカケホンセイインコが取り上げられる機会が増えていますが、どのように思われていますでしょうか?
(阿部仁美先生)きちんとワカケホンセイインコについて調べてほしいという思いです。
ワカケホンセイインコに関する問題は難しいので、10~20分で紹介すると「外来種で迷惑、駆除」という方向になりやすいと思います。
しかし、そうした駆除という選択が取れる問題ではないこと、実際の生態についても取り上げてもらいたいです。
(岡本勇太氏)ワカケホンセイインコに関する報道が現状、専門家不在なのが問題と感じています。
生き物や自然相手のニュースなので、芸能ニュースとは性質が異なります。
専門家は長年かけて調査やデータに基づいて、世間がどのように受け止めるか考えて発言するので、ワカケホンセイインコを調査している専門家を起用してもらいたいですね。
ワカケホンセイインコが生息する木が剪定!
2022年1月18日に神奈川県川崎市にある緑地で、ワカケホンセイインコがねぐらにしている木の枝が剪定されたとの情報が入ってきました。
下記の記事でねぐらの木の剪定作業についてまとめています。
残念ながら、木の枝のほとんどが切られてしまい、ワカケホンセイインコのねぐらには使えない状態です。
川崎市から委託を受けた業者によって行われてた剪定作業は、ワカケホンセイインコ対策で実施されたことが分かっています。
ねぐらの木の剪定作業によって、ワカケホンセイインコの生息域拡大につながらないか心配です。
まとめ・終わりに
今回、日本の都市部で個体数を増加しているワカケホンセイインコの問題について、調査・研究を行っている阿部仁美先生、インコ写真家の岡本勇太さんにインタビューしました。
ワカケホンセイインコについてが日本に生息するようになった経緯から、多くの方が疑問に感じていることを丁寧にお答えいただきました。
今回のインタビューを通じて、きちんとワカケホンセイインコについて調査している人々の意見を聞きながら、野生化の問題に取り組むべきだと感じました。
我々日本人がどのようにワカケホンセイインコと向き合っていくべきか、阿部仁美先生と岡本勇太さんの貴重なインタビューを参考にしていただければと思います。
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